男と女と水戸光圀

――で、主人公を男性にすべきか女性にすべきかという事について、
「男女平等」という観点からはどっちでもいいやろという話ですが、
現実には平等ではないので、「どっちでも良くはない」という実情はあるかと思います。
(私の視点だと、「女性」は紡績工場とか炭鉱で働かされて極度に不当な扱いを受ける場合と、ただ「女だから」という理由で男性から甘やかされて極度に、ある意味「不当に優遇されている」場合があるように思います。要するに、扱いが「両極端」であるケースが目につくように思います。その差がどこから出てくるのかという事について、それが例えば「容姿」とか「体型」で決まるのであれば、それこそが男性による女性への真の「差別」だと思います。)

少し考えてみたのですが、例えば若い主人公と「親」の関係を考えてみます。
ここで「若い男性が母親べったり」という設定だと、かなりの高確率で「マザコン」というレッテルを男性からも女性からも貼られると思います。(「母親想い」という設定を書くにはそれなりの技量が求められるかと。)
ところが、同じ年の娘が母親と仲良くする分には、あまり問題ないと(なぜか)されるのが普通かと思います。
つまり、こういった小さなところで、キャラが「男性か女性か」という事はそれなりに作品に影響してくる事になります。

多分、「男性による真の差別」が横行している舞台や世界観のもとでは、
「かわいい女性」は実に扱いやすい存在とも言えます。
なぜなら、男性から(不当なほどに)優遇されて、治外法権で何をやっても許されるという感じだからです。無茶苦茶な設定でもそれで通したいなら、そういうキャラは便利かもしれません。極端な話、水戸黄門の「印籠」を顔に持っているようなものです。
反面、そういうキャラは、内面の奥深さや葛藤を描写するのには向いていないと思います。何をやっても、何を言ってもOKがでるわけですから、悩みなんて存在しないし、貫く信念なども持っていなくてOKなわけです。「印籠」を掲げれば全て解決ですから。知識も技術も力も精神的な強さも必要ない。「印籠」があるから。
ですから、多少の扱いにくさはあっても、ちゃんとした感性や信念を持つキャラを描写したいなら男性か、女性であっても「何か問題を抱えている」キャラのほうが優れているのかと思います。

「かわいい女性」キャラは、その属性自体が水戸光圀の印籠みたいなところがあるので「個性」をつけにくいという弱点もあります。
これは、漫画とかアニメだと特に顕著だと思います。
かわいいというだけで男性から人気を集められますが、それ以上の個性は、何もないです。全員同じであると言っても過言ではない。同じ絵柄の同じ目の同じ輪郭で、カツラを変えてるだけです。酷い場合には髪型もほぼ同じで名前変えてるだけ。
(映画の女優さんなどは、生身の人間だけに当然ながら容姿も良くて「個性」もある人はたくさんいますね。しかし「かわいい女の子キャラクター」だと没個性になりがちだと思います。)

推理小説の場合、万能で好き勝手が許される設定の「探偵」であれば「かわいい女性」キャラは意外と使えるのかもしれませんね。
「あたしは、『かわいい女性キャラ』なのよ。この『印籠』が眼に入らぬかぁ!!?」
――で、全て済むんで。
男性刑事がヤクザまがいの脅しで強引な事情聴取するよりも、よっぽど手早い。
ヤクザ面の男性デカに好んで秘密を語りたいと思う人は男にも女にも一切存在しませんが、「かわいい娘」になら話してもいいかと思う人はいるでしょう。
まあ、女性が女性に対して「妬み」を持つという事もあるので、作中の世界観によっては通用しない事もあるでしょうが・・・。

この「かわいい」というある意味強い属性は、悪用しない限りにおいては有効に使ってもよかろうかと思います。
例えば、子供とか動物でも、そういう属性に対して人は気を許す傾向はあるでしょう。それを悪用するのは良くないですが、善い事に使う分にはよかろうかとも思います。
中年デブオヤジ刑事を主人公にする限り、はっきり言って外見で人から信用されませんから、警察手帳とか体育会系/ヤクザ調の「脅し」で人を従わせるしかない。(暴力団を相手にする刑事ならそういう感じである必要もあるかもしれませんが、そうでもないのに一般人相手にやたらと威張る刑事キャラもいる。)
同じ男性刑事でも、もう少しましなルックス・年齢・性格であれば、もう少し自然な捜査もしやすいはずですが・・・。昔、人気シリーズになった推理小説のメインメンバーの男性刑事はそういうキャラだった記憶がある。
やっぱり、単に荒っぽくて威張ってるだけのキャラには、多くの人がついていけないんでしょうね。尚、水戸黄門は印籠は掲げるけれど、普段は優しいおじいちゃんで権力をふりかざさないという属性を持つキャラですね。

ここでちょっと変わり種のキャラとして、「かわいい」けれど「謙遜に振る舞う」女性キャラというのも、そろそろ人気になってよいのではないかとも私は推理します。
これは言ってみれば、「本当の意味での水戸黄門の女性版」でしょうか。
すなわち、いざとなればその「印籠」は使えるけれども、そう簡単には使わない。普段は、とにかく謙遜に徹する。
いざという時には、本当なら知り得ない情報も教えてもらえる と。・・・まあ、本当は外見で判断するのは良くはないですけれど、普段からの内面も伴っているなら、まあいいんじゃないでしょうか。
そろそろそういう時代が来ていいのではないかと思う背景には、現に水戸黄門とかスーパーマンのように「普段は力を隠している男性キャラ」がかつて人気を博して、今でもファンがいるという事実があります。(そういうキャラは二重人格とかではなくて、「力」の制御ができる。)
確かに現在では、ゴム状の肉と骨を持つ某海賊キャラのように、普段から「力」を行使してなんぼというキャラが人気であるのも同じく事実です。そういった「好き放題やる悪」がなぜか人気者になってしまう背景には、大きな社会不安とストレスがあります。しかしそういう「悪」には結局のところモラルがありませんから、余計に社会不安を増大させ人々にストレスを与える結果になります。
そういう意味では、そろそろ、よほどの事がない限り印籠を使わない水戸光圀的な要素を持つキャラが必要なのかとも思います。

男性キャラでも、事あるごとに警察手帳やら拳銃やら怒号で人を脅して話を進めるタイプのキャラは、顔と体だけで話を進める「かわいい女性キャラ」と結局同じだと思います。
つまり、個性がない。
だから、そういうキャラを使っても、それは過去の商業作品の焼き直しみたいなものにしかならない。キャラに個性がないので、ぐちゃぐちゃと設定を練って読者を煙に巻いて誤魔化すしかなく、そういう方向でやっていくのは結構キツい作業かと思います。

私は、応募作でも同人でも、「顔と体」だけの女性や「脅しと暴力」だけの男性ではなくて、もっと個性のあるキャラクターが主役の話を書き続けたいな。